読書レビュ―【2021年度下半期】

読書するとき、心に残ったものは一冊ごとにレビューを書くようにしたので、こんな本を読んだと全体的に総括するのは半年に一回くらいのペースがちょうど良いと感じるようになりました。この半年で読んだ本をパーッと振り返っておきます。

『そしてバトンは渡された』瀬尾まいこ



本屋大賞と、あとは映画化していたので買ってみました。あまり登場人物に感情移入ができなかったのは、あまりに主人公たちが自分とかけ離れた性格だからだと思います。親からのバトン的なメッセージもあるわけだけれど、森宮さんが不器用なのか何なのか、しっくりこなかった感じがあります。


とはいえ色々考えたので、記事にしてます。


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『生物はなぜ死ぬのか』小林武彦



普段、僕が考えているのって、本当に哲学的などうしようもないことばっかなので、生物学的な論点から書かれているものが読みたくて買いました。ただ、あまりに生物学的でした。唯一、死ぬ目的として書かれていたことで思想的な話はあったんですが、それを考えるのであれば、かつて紹介した岡田斗司夫の本の方が個人的にはしっくりきました。ただ、遺伝子相続ではなく摸伝子相続に重きが置かれるようになる社会では、忘れられがちなのはこっちの生物学的な話になってくると思うんですよね。かなり好評な図書なので、おすすめです。

『夏の裁断』島本理生



もし僕が本気で恋愛小説を書こうと思っている素人だったら、この人の作品を読んだ瞬間に頓挫すると思います。この人より艶めかしい異性間の表現なんて無理だろうと思わせる迫力があります。かつてファーストラブを読んで、島本理生さんの作品はこれで二冊目なのですが、書かれてあることがあまりにも同じで驚きました。それはもちろん、二番煎じという意味ではなく、これだけ同じで、これだけ似通い、同じ容器に入れれば違いの分からなくなるようなどこにでもあるような愛簿と嫉妬が、これほどまでに異なる視座で書かれるのだということを教えてもらったような気分。愛ではない形の容器に愛を入れてしまう人たちの描写が恐ろしいほどの迫りくるんですよね。登場人物と読み手である自分になんの共通点もないはずなのに、ああ、これは自分の話を書かれていると思ってしまうところ。こういうのが本当のプロなんだと思います。


話の本筋についても触れておくと、これは千紘の話のように見えて、柴田の話なんですよね。そんな風に僕は読んでしまいました。千紘の美しさが、柴田の破滅願望の上でか細く佇んでいる感じ。何かを傷つけたくなる瞬間があると語る柴田は、その対象が千紘でもあり、この先などどうにでもなれという意味での自分でもあるわけですが、これは、千紘がそのある種エロい感じの自暴自棄の狭間で育つストーリーのように思いました。

『どうしても生きてる』朝井リョウ




朝井リョウさんの短編集は初めて読んだ。『何者』と『性欲』の印象があまりにも強かった自分だけれど、あれはどちらも群像劇で、群像ではない朝井リョウさんの世界観を楽しませてもらった。


詳しくは過去に書いた記事にて、略。


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『寡黙な死骸 みだらな弔い』小川洋子



かつての大学の同級生に貸してもらった。正直話の筋なんかはどうでも良くて、僕はこれを読んでから、文学とは、ということを考えた。本作では死に対する異常癖とも思える行動を持つ人たちが数珠つなぎのように交わるストーリーだが、誰もが体験する死をここまで官能的に書けるのかという、その美しさを誇示する文学としての作品だった。この作品からこんなメッセージを感じ取ってもらいたい、というような作品ではなく、どこにでも転がっているものを、私はこのように表現する、という、文学という枠組みの中での美しさを極める人。僕たちはそうした人から、表現を学ぶんです。出来事ではなく瞳を盗んだような気持ちになる。そういう本でした。


これを読んで、高尚だ、と思ってしまったんですよね。それは、面白かった、でもなく、上手な表現だな、でもなく。しばらくそのことを考えて記事にしたのが下のものです。小川洋子さん自身が、あとがきで、教えてくれました。


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『殺人出産』村田沙耶香



小学生が読んだらトラウマになる本。十人を産んで一人を殺す女の話と、三人で性交する女子高校生の話と、機械的な結婚をする夫婦間の人工授精の話。三篇目の最後の一文とか本当にトラウマです。こういう未来と戦うんですね、我々は。誰もがそれは気持ち悪いと思うものがすぐやってくるんです。


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『太陽と乙女』森見登美彦



これまた同級生に借りた。京都大学の出身として読むのは本当に面白かった。ただ時代の背景というか、古書なり店なり、今自分がパソコンで文字を売っているのも恥ずかしいなと思ってしまうほどの環境は一見。小説ではなくエッセイですが、京都にあるていど済んだ人なら絶対に面白いと思います。京大生ならなおさら。

『沈黙のパレード』東野圭吾



久々にミステリーが読みたくなって。ただ残念なのは、ここで何を書いてもネタバレになるところ。面白いですよ、意外に何も言えません。

『不在』彩瀬まる



『夏の裁断』と迷いましたが、今期で一番心に残ったものです。正真正銘の「不在」の話。主人公の明日香には欠けているものがあり、父の遺品整理で訪れた館が徐々にその答えを教えてゆきます。ネタバレになるので詳しくは言いませんが、明日香があれだけ憎んでいた父になる瞬間が、彼女自身の不在の爆発だったのだと思います。その不在を、それでも優しく諭してくれる人たちの言葉が、胸に染みると思います。大事なものが、いつまでも欠けたままで。


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『推し、燃ゆ』宇佐見りん



途中まで読んで諦めてしまいました。どうしても最後まで読めなかった。読む人間としてではなく、書く人間として読んでしまったからだと思います。宇佐見りんさんの才能自身を読んでいる気持ちになって、一つの作品を読んでいる気持ちにどうしてもなれなかったためです。それはきっと、自分とはかけ離れた構造をした脳内によってこれが描かれていると分かってしまう自分の奥底の劣等感のせいだともいます。芥川賞はやはり、異世界なのです。

番外編

封神演義


マンガブームの産物。西遊記とかと並ぶ中国のSF。マジでばかおもろいんでお勧めです。個人的に好きなキャラは哪吒(なたく)。あと武吉。かわいい。

AKIRA


バイク乗りの必読書。2020年の東京オリンピックが舞台というタイムリーな設定。作品の発行当時はもちろん未来のことなんて分からないので、すごい予想的中。アニメも面白いらしいのでいつか見てみたい。バカみたいにかっこいい赤バイクが惚れる。