読書レビュー【2021年度上半期】①

一か月もブログを書かなかったのは、今年になって初めてです。なんとPV数はみるみる減り、お小遣い程度に稼げていた広告収入も半分ほどになりました。


書くことがなくなってきた、というより、あまりに日常生活で刺激をもらうことが減ってきている気がして、それはやはり学校に通うことがなくなって受動的な知識の取入れがなくなったのが一つの要因でしょう。学校に通っている時は「どうしてこんな必要とは思えないものばかりやらないといけないんだ」みたいに思うことも多々あるわけですけれど、そうした押し付けの学問の中に意外と大切なことが隠れていたと分かるのは、今の自分のように塀のない自由の中に住み始めた時からなのかもしれません。


と、そんな前置きはさておき、そんな自分にも数少ないインプットであった読書のレビューをします。読書という名の多々の”魂”に触れてきたので(本当に魂を見せられているような作品は感想を述べるのもおこがましいような気分にすらなるのですが)、その片鱗が自分から少しでも逃げぬようにと書き留めておくのがこのブログのような気がします。


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『悼む人』天童荒太

悼む人 下

悼む人 下

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今年度に初めて触れた作品でした。


よほどのことがない限り、今後の人生において最も自分の価値観を揺さぶった小説になるのではないかと思います。これこそ感想を述べるのがおこがましいという表現そのもので、これを語るのは本当に50歳くらいになった時にしようかとでも思ったのですが、しかしそれはその時にするとして、今の自分が感銘を受けたのはひとえに、大学を出て命を考える公的な手立てを失った自分に重なったからでしょう。


坂築静人という、過去に医療従事者であった友人のことがきっかけで、ニュース等を頼りに死者を訪ねる者のストーリーです。しかしこの坂築静人は一人称視点では一度も現れず、静人の母である巡子、記者の蒔野抗太郎、静人と共に旅をする奈儀幸代の三点倒立で物語が進みます。坂築静人の心内描写がなかったのは、この物語をうまく加速させたようにも思います。


三人をまとめるのなら、愛を疑う心への問いかけがどう結ぶのかといったところが魅力で(巡子だけは奔放としていましたが)、蒔野であれば父の愛人との会話の応答中の葛藤シーンや暴力団に襲われてからの見る影もない変容っぷり、奈儀であれば霊になった元夫の刺殺の(一時的な)”答え”が出たシーンは、読者として震えることなく読むのは不可能でした。途中まで奔放に見えた巡子も、孫を楽しみにする姿の中に数々の苦労も垣間見えて(その過程にもさらに胸を痛めるものがあった)、余命僅かのシーンにもそれが如実に表れておりました。


静人の最後の行動にはかなり賛否が分かれるような気もします。現に自分は「早く母のところへ行ってやれば...…」などと思ったのですが、しかし最後はあの姿でよかったとも読後には思いました。それで帰らぬからこそ、それが悼む人というもので、見送るのではなくあくまで”憶えておく者”としてのキャラ立てはそれには代えられないものがあったような気がしました。


自分にはこれ以上の感想など述べる由もないのでこれくらいにして、ではこれを読んだときの現実世界の自分の話をすると、僕はこの作品の登場人物にうまく感情移入できたというだけではなく、さらに、坂築静人を主人公にしようという発想のある人間がこの世のどこかにいてくれている嬉しさというものを感じ取り、それがもしかしたら一番嬉しかったのかもしれません。どのような人生経験があればこのような作品が作り出せるのか、その魂を片っ端から盗みたいと思っただけでなく、さらにその先、その存在を一度は目にしたいというのが、自分の今何とか抱えられる夢の一つです。


ちなみに、当作品に心を打たれて書き上げた自分の小説の主人公は、リスペクトをこめて”新”と名付けました。何のリスペクトか分からないし、ただの自己満足なのですが。そうした人の思いのかけらだけでも自分の作品に宿って欲しいという一縷の望み故です。

『オルタネート』加藤シゲアキ



高校生直木賞受賞作、直木賞候補作と話題になっていたので単行本への躊躇(単価の高さ故)を抑えずに購入しました。購入して、正解でした。


どちらかと言うと、二桁にも上らないページ数で主人公(視点)が変わる作品はあまり得意ではなくて、この作品もその例外ではなく、特に前半部分でのある種”グダリ”のような要素があまり得意ではなくて、しかしそれでも読む手が一度も止まらなかったのはきっと主人公の圧倒的なキャラの強さだったと思います。特に伴凪津が一番好きでした。こじらせ系女子、データでの恋愛に狂うような性格ですが、彼女がいたおかげでオルタネートの真骨頂が表現できたように感じます。そのようなマッチングアプリが訪れる未来はもしかしたら我々の生きている間に可能かもしれないし、そうしたものを丁寧に恐れるということの美しさを感じて、シンプルに、好きになりました。


容の決勝戦のリポーターには腹が立ちましたね。おらんやろ、決勝戦の途中で現在の交際関係を聞き出そうとする奴。

人のセックスを笑うな』山崎ナオコ―ラ



性の話を見たくて、後述の『乳と卵』と合わせて購入。ただ、純文学というものの楽しみ方が分からなくて読むのに苦労し、作者にとても申し訳ない気持ちになりました。百数ページの短い話なので、読むのはすぐ。不倫関係は基本的に自分にとって感情移入不可能な分野なので宇宙人の話でも詠むような気でいたが、それでも宇宙人の生態を数百円で知れるというところに読書の奇跡が隠れているのであって、読んでよかったと思います。


作者の山崎ナオコ―ラさんは、性別非公開となっていて、なんというか恐ろしい神秘の意味を感じる次第です。きっと自分には到達できない世界を持っていると思われます。

『乳と卵』川上未映子



上述の通り苦手な純文学ですが、作風が自分があまりに触れたことのないようなもので、それに対する好奇心からページをめくりました。


豊胸に取りつかれた巻子の話ですが、一番ストーリーを支えたのはその娘である緑子のような気がしました。地の文なしに緑子の日記だけでも、男性の自分には衝撃的な言葉ばかりで、こういうものに男が触れておくことがいかに重要で、そして女性がそれほど言葉にしてこなかったことに気が付かないでいる可能性に目眩すらしました。良い作品というのはきっと、それを読ませた後に、それを読む前の自分に戻るのをとてつもなく恐ろしく感じさせるものでしょう。



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少し書いて疲れたので、次回に続きを。