【後編】自死の予防因子について―『生き心地の良い町』より―

昨日の記事に続き、今回は後編を書きます。先に、こちらの記事をお読みください。


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前回の前編では、自死の予防因子として重要な心理的背景に関して考察をした。今回はそれとは異なり、この本の中で述べられている、歴史的及び地理的背景について紹介したいと思っている。


本の紹介に関してはこちら。最近この本のことばかり書いている気がする。


歴史的背景


前回の記事では、海部町の絆の特徴に「ゆるやかにつながる」というものがあり、それが特に印象的だったように思う。ではそうした人々の交流はどのような歴史的背景をもってして誕生したのだろうか。

海部町は多くの移住者によって発展してきた、いわば地縁血縁関係の薄いコミュニティだったのである。
(略)
多くの移住者は裸一貫で、単独あるいは家族だけを伴って移住してきたと考えられる。(略)短期間にてんでに集まってきた多士済々なひとびとが、共存共栄への道を開く作業に一斉に着手し、現在の海部町につながるコミュニティが生まれたと考えられる。
(略)
町の黎明期には身内もよそ者もいない。異質なものをその都度排除していたのでは、コミュニティは成立しなかったわけだし、移住者たちは皆一斉にゼロからのスタートを切るわけだから、出自や家柄がどうのと言ってみたところで取り合ってもらえなかっただろう。


なるほどこのような歴史的背景のおかげで、ゆるやかな絆が形成されてきたのだと納得がいく。


このような事実を見ると、日本において海辺の方が山間部よりも自殺の少ないという現状は、移民のおかげというのが一つありそうである。しかし、それに加えて、さらに面白い研究結果があったことを以下で紹介する。それが、地理的背景である。


地理的背景


海と山の地理的な違いとは何か、と聞かれたら何と答えるだろうか。一番初めに出てくるのは「標高」ではないだろうか。


高度があると酸素が薄くなって…?みたいなことを実は自分は初めに予想したのだが、実際はそんなことはなかった。それはまさに、必要施設へのアクセスである。例えば、最近気分が優れないが精神科に行くのも遠くて億劫だ、というケースを想像すれば、山間部で自殺率が高くなる現象に納得がいく。


ということは……。仮に山間部であったとしても、周りが開けた土地で、必要施設へのアクセスが簡単な地域なら悪くはない、ということになる。だから、山と海辺での違い、と大雑把に区別するのではなく、さらにほかの区分を考えた方がよいのではと気が付く。それこそが、その土地の「傾斜」だった。


移動を苦労なものにするのは、標高よりもその土地の傾斜だということである。傾斜の大きい町における記述がある。


この町(岡さんが訪れた、海部町に比べ自殺多発のA町)が医療への到達が困難な地域であることについて、町の老人たちは「わしらが子供のころには、急病人を病院へ運ばなあかんとなった時点で、もうあかんのやと覚悟を決めたもんや」と言っていた。
(略)
しかしA町の老人は、子供のころから「覚悟を決める」ことを知っていたという。なんとかできないか、なんとかなるかもしれない、そう思ってあらゆる選択肢にしがみつく代わりに、覚悟を決める――抗わずに天命を受け入れるという姿勢を身につけて来た。

土地から生まれる慣習により自殺率が左右されるという事実に出会ったのは、自分は二回目だった。


一回目は、北の地において日照時間が少ないことによりビタミンDが産生量が少なくなり免疫効果の低下により自殺率が高いというデータを見た時である。心理的な背景に目が行きがちな自死において、地理的要因の考察を行う観点は当時の自分にはなく、面白いと思ったのを覚えている。


まとめ


以上、前回から二回にわたって自死予防因子をまとめてきたが、では我々に明日から出来ることは何だろうか。



ということは、本書の最後でも書かれている。心を動かされたものだったが、ここはぜひ皆さん自身に読んでいただきたい。




無責任なまとめで、おわり。