嘘で気化する誰かのバトン【『そして、バトンは渡された』を読んで】

注 当記事は、小説『そして、バトンは渡された』のネタバレを含みます。引用を各所から行うだけなのでストーリーの概要には触れませんが、今後作品を楽しむ予定がありましたら、自己責任で読んでください。 ****************** 早瀬君がそ…

働くこと、そして、人を助けるということ【後編】

以下の記事の続きです。 www.mattsun.work 上記事末尾で書いたような、所謂「むき出しの善意」というものには、デメリットがあるのは明らかです。それは、その搾取のしやすさにあるでしょう。つまり、これだけのことをしてやれば、あいつはこれくらいの見返…

働くこと、そして、人を助けるということ【前編】

仕事をやめました。 2021卒で大学を出て、バイトで生活を食いつなぐも、今後の様々な可能性を考えて資金をためておくという意味でできることをしておかねばという思いで仕事を始めていました。ちょうど二か月ほど前からです。派遣会社を仲介して紹介してもら…

反出生主義と安楽死―「生まれてこないべき」と「今死ぬべき」の境界―

たまにTwitterでこんなプロフィールを見かけることがある。 「安楽死」は当然の権利、反出生主義者 それを見るとき、僕にはどうしても違和感が拭えない。安楽死と反出生主義は対立概念ではないかと僕は考えているからだ。 ****************…

己が自殺を思いとどまること、他人の自殺を止めること

自殺の計画を本気で立てたのは三回目だった。 一度目は去年の春だった。ちょうどコロナが蔓延し出し、国民がやっと危機意識を持ち出す雰囲気が出てきた頃だ。精神科で渡された抗うつ薬の副作用がきつすぎて、部活の引退試合に出られないことが決まった時だっ…

言論のリベラルに"余白"を考える

小学一年生の時の話だ。当時の担任の教師が、学級を運営するにあたって絶対に放ってはいけない言葉というものを制定していたのを思い出す。その言葉は七つだった(この七という数字だけ何故か鮮明に覚えている)。死ね、キモい、ウザい、クサい、あと三つは…

早く楽になりたい

もう就職してしまいたい、と、大学を出てもう半年ほどになるのだが、そんなことをもう百回は考えたと思う。早く就職してしまいたい。目の前の社会のサイクルに、とっとと参加してしまいたい。 僕は彼が憎い。死にたいと思ったときにそれを実行できてしまった…

能力と運の狭間へ堕ちる【後編】

続きです。www.mattsun.work 前編ではほとんど自分の過去しか書いていなくて、読み返してなんやねんって思わずつぶやいた。自分って意外と過去語りしかしていないし、きっとそれほど今に進歩がない人生なのかもしれない。残念。 *************…

能力と運の狭間へ堕ちる【前編】

今思い返すと恐ろしいことだったな、と思うことがある。 その記憶は、自分の小学校時代までさかのぼる。自分は当時、全くも相反する概念を支持する環境に同時に所属していた。それは能力主義の学習塾と、運主義の小学校という二者である。 前者、学習塾は、…

読書レビュ―【2021年度上半期】②

前回の続きです。 www.mattsun.work ******************* 『正欲』朝井リョウ 正欲作者:朝井リョウ新潮社Amazon 自分が書きたかったもの、先回りして書かれました、感。 全部言葉にされた、悔しい。 たぶん該当する人にとっては、一番初…

読書レビュー【2021年度上半期】①

一か月もブログを書かなかったのは、今年になって初めてです。なんとPV数はみるみる減り、お小遣い程度に稼げていた広告収入も半分ほどになりました。 書くことがなくなってきた、というより、あまりに日常生活で刺激をもらうことが減ってきている気がして、…

文化のセックスに切り捨てられる人たち

最近ある本に出会ったことで、自殺についてさらに自分の知見が深まったような気がするので、今回はそれを書きます。どのような話かと言うと、自殺の犯人は誰なのかということについて、今までより具体的に言語化できるようになったかもしれない、という話。 …

LGBT理解増進法……理解?

昨今LGBTの話題はなんというかタイムリーで、同性婚の話題もあがれば、資本主義と弱者男性を結び付ける論調も登場するなど、さまざまなことが今の世では謳われている。雄の目的は雌の獲得であるという、我々が逃げられない性質はこの世をどんどんと不幸にし…

本を読むことに意義はあるのか

なぜか小学校の頃の記憶で鮮明に残っているものがある。クラスの三十人ほどで、討論を行う授業だった。 題は「本とテレビはどちらがいいか」だった。 どちらの立場で討論に参加するかは各自で決めていいとの事だったので、僕は迷わずに本側に着いた。そうし…

京都大学卒業にあたり ―私の体はどこにあるのか―

京都大学を卒業した。学生の身分を終えた今、見えたものを大事にしようと飛び込んだ総合人間学部の二年の期間は一瞬で過ぎたように思う。 この2年の間、就活や院試の勉強に自分は励むことなく、卒業した後には無職の道をたどることになった。直接の原因とし…

自死遺族をそっとしておくことは健全な策か?

昨日、初めて一日に二つの記事を書いたが、溜まっていたものをパッと出せたのですっきりした。性に関して加害と被害の関係から、男性視点で起き得る問題を指摘した。www.mattsun.work www.mattsun.work 性を加害被害の関係でしか捉えられてこなかった自分は…

男性にとって女性は”報酬”なのか【後編】

前回の記事の続きです。www.mattsun.work 前回、セックスやジェンダーにおいて起こる加害と被害の関係を完全に取り除くのは不可能ではないかという話をしたところだった。加害者には「享楽を与える者」としての側面があることは認めなければならず、その恩恵…

男性にとって女性は”報酬”なのか【前編】

最近、性の対立構造について考えることが増えた。長いこと考えてしまうと、それは大層生々しい気持ちになって後味が悪い。 別に、男と女というそれだけの話なのに、生々しい感情になってしまうのはどうしてだろうか。それは未だ自分が、男性と女性の関係を「…

3月が怖い。

厳しい寒さを終えて暖かい春がやってくるなんて、嘘だ。 卒業の時期が近づいてくると、何かモヤモヤしたものが近づく。 僕が楽しんでいいのかなという不安。あとは、それを迎えたかったはずなのに迎えられなかった人を思ったときのやるせなさ。 僕はなんで、…

安楽死を認めるか―自己決定の観点より③―

自己決定の観点から安楽死を考えるのは、これで最後にしようと思う。前回の二個の記事をまとめると、①では「自己決定」という言葉による自己の体と心の距離の話、②では自己決定と権利という言葉の意味を深く考えた。 www.mattsun.work www.mattsun.work 今回…

安楽死を認めるか―自己決定の観点より②―

前回の記事に続き、安楽死を認めるうえで重要な議論になるであろう「自己決定」を考察していく。前回は、自己決定という概念を、「私自身と、私の体の間にある距離感」という観点から考えた。今回はそこに続く話でもあるので、ぜひ確認してもらえると嬉しい…

安楽死を認めるか―自己決定の観点より①―

前回の記事で、日本でもっとも有名であろう二つの安楽死事件を取り上げたうえで、その判決に関しても記載した。 www.mattsun.work くどいようだがもう一度振り返っておくと、安楽死において重要となった用件が、以下である。 1患者が耐えがたい激しい肉体的…

安楽死を認めるか―過去の事件とその各論―

死ぬ権利はあるのかという疑問は、自分の中で答えが出ないままに膨れ上がってきたように思う。答えが出ないと分かってはいるが、それでも納得できる一つの自分だけのロジックくらいは持っておきたい。 様々な文献を読む中で、特に安楽死を認めるべきかどうか…

生きる手段としての”死”の提供

新年の目標として、平日は毎日記事を更新するつもりで、いた。書きたかったことはいっぱいあったし、書くことでいろいろと整理されていくことはあった。しかし、2/11をもって、終わってしまった。 敗因は、ネタ切れ。 三十くらいの記事を書いたら、意外にも…

"死ぬ権利"というものは存在するのか

もし仮に、ある人があなたに「死なせてくれ」と言って来たとして、あなたはどのように対応するだろうか。きっと、止めるだろう。しかし、こう言われるのだ。「自分の人生をどう終わらせるかは自分で決めていいはずで、あなたに干渉される筋はない」と。 死ぬ…

【後編】自死の予防因子について―『生き心地の良い町』より―

昨日の記事に続き、今回は後編を書きます。先に、こちらの記事をお読みください。 www.mattsun.work 前回の前編では、自死の予防因子として重要な心理的背景に関して考察をした。今回はそれとは異なり、この本の中で述べられている、歴史的及び地理的背景に…

【前編】自死の予防因子について―『生き心地の良い町』より―

先月末に読んだ、岡檀さん著の『生き心地の良い町』が、かなり名著(このような表現だと上から目線ですが)だと感じて、刺激を受けたので、その内容を今日と明日にわたってまとめてみることとした。生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある作…

『役割』と『役柄』―中身と表層の話―

今月は、自死に関しての話をまとめることが多かった。その集大成のまとめとして、一つだけ声を大にして訴えたいことが、あるように思う。 自死と不幸は結び付かないと言うことだ。これは、以前の記事でも話したと思う。www.mattsun.work www.mattsun.work ww…

「愚かである」ということ。―『愚行録』―

自分の愚かさに嫌になることがある。また、他人の愚かさに嫌になることもある。 前者はおそらく、どちらかと言えば内省的な人間に映り、褒められる人間の部類に入るだろう。一方後者は、自分の都合で周りを決めつけるような、自己的な人間に映ることが多いか…

『安楽死か、尊厳死か』ー要約と感想ー

新年になって、本を読むことが増えた。その中の一冊で、この本を買った。 安楽死か、尊厳死か (ディスカヴァー携書)作者:大鐘 稔彦発売日: 2018/09/26メディア: 新書 大学で自死の研究を行ってきたが、自分は安楽死に関する考察をしてきたことはほとんどなか…