現実判断から逃げること【『流浪の月』を読んで】

ちくちくと痛む心を抑えながらでないと読むことができない本だった。 流浪の月 (創元文芸文庫)作者:凪良 ゆう東京創元社Amazon 読後感としては、朝井リョウさんの『正欲』に近いものがあった。自分たちが考え抜いた末の善意が、いかに当人たちにとって不必要…

コロナ禍における人々のキャラクター【映画『キャラクター』を見て】

最近いろいろと立て込んでいたのだけれど、少しだけ余裕ができたので久しぶりに映画でも見ようと思い、AmazonPrimeを漁っていたら一つのサスペンスが目について面白そうだと思って鑑賞させてもらった。 character-movie.jp ※ネタバレが結構致命的な作品なの…

首相襲撃から見る、地図を失った社会と信頼問題

今回の参議院選挙はしっかり参加しようと考え、情報収集などをもとに投票先まで決めていたのですが、その二日前にあのような悲惨な事件が起きてしまい、直後のSNSでは「#投票は香典じゃない」などのタグが出回るさまで、なんとも選挙に対する心持ちというも…

映画『Plan75』の感想

先日、『Plan75』を見た。 happinet-phantom.com 諸々、感想を書く。登場人物の名前があやふやなので、登場人物名ではなく役者名で書く。 『Plan75』の制度自体に関して 映画を見進めるたびに、これはPlan75という制度があれば国民は幸せになる、という意思…

生きたことへと返事を書く

ここ数か月ほど、陰湿とした気分が続いていた。3月に一編の小説を新人賞に応募してからは創作意欲がめっきり薄れ、何を書いていいのかも分からなくなって、ブログだけは5月中旬まで続いていたけど、それもめっきり書かなくなってしまい、もう応募すること…

『パラサイト』と嗅覚から始まるゾーニングについて

AmazonPrimeで『パラサイト』が見れるようになっていた。 www.parasite-mv.jp かなり面白かった。社会風刺みたいな映画と思って見たのだけれど、もちろんその要素がありながらコメディみたいでもあった。そりゃあ現実世界であんなことが起きれば悲劇だし、で…

少子化に関する思惑―出産ではなく流産をやめた社会―

少子化の議論を見ていると胸がキュッと締められる思いがある。何だろうな、これ、と思って少し考えると、やっぱり子どもは作りたくないと思っている自分への自己嫌悪だし、そうした考え方が「防ぐべきもの」という前提でほとんどの議論が進んでいることに因…

坂口恭平氏の『精神病は存在しない』という言説について

僕が尊敬してやまない人の一人です。坂口恭平。 僕の仮定ですが、いわゆる、精神病は存在しないのではないかと思ってます。もちろん落ち込むなどの症状はあると思いますが、精神病と診断されていることに決定的に疑問があります。ということで病気別の人の特…

『明け方の若者たち』から見る、社会の中間集団の解体について

優れた作品にまた出会ってしまったらしい。 akegata-movie.com 若者の「マジックアワー」として、カツセマサヒコさんが書き下ろした小説の実写化で、原作は読んでいないのだけれど、AmazonPrimeで配信されていたのをきっかけに見た。これってあれじゃん、と…

雑に書く

久しぶりに夢を見たんだ。ビルの8階にいた。突然停電で真っ暗になって、そしたらすぐに激しい横揺れが襲った。「地震だ」って誰かが叫ぶのと、そこらにある物がガラガラ崩れ落ちるのがほとんど同時で、どこかにしがみついて揺れが収まるのを待った。収まった…

『さよなら絵梨』から見るドラマツルギーについて

すごい漫画を紹介してもらったので紹介する。 shonenjumpplus.com ジャンプラから出ている『さよなら絵梨』というマンガ。主人公の優太が撮る動画のコマを基本に進む構成だが、何と言ってもこの作品の特徴は、読者視点の設定を常に揺さぶってくるという点に…

人の好みを判断するうえでの「麻酔コンテンツ」と「覚醒コンテンツ」

人からもらった造語なのだけれど、「麻酔コンテンツ」と「覚醒コンテンツ」というのは面白いコンテンツ分類だなあと思って、そのことをぼんやりと書いてみたいなあ、と思った。 ちょっとしたエピソードから話すと、いつしかの記事で紹介した、バイトの後輩の…

差別を肯定するべき人間と、差別を否定するべき神について

人間とは差別を否定するべき存在である、というのは現代の傾向として凡そ間違いのない考え方ではあるのだと思う。しかし最近の社会運動的な何かを見ていると、どうもそうではないよなあ、という気がしてならないのである。 そう思う一番の原因として、人間(…

『左ききのエレン』―才能を持たなかった全ての人たちへ―

マンガからこんなに高揚感を味わったのは久しぶりだ。タイトルは『左ききのエレン』。才能を持たぬ凡人である朝倉光一と、才能しかない自分に絶望しているエレン、その二者視点で描かれるクリエーター群像劇である。 左ききのエレン 1 (ジャンプコミックスDI…

故人の存在を『履く』ということ

已むに已まれぬ気持ちで記事を書くのは珍しい。頭の底から出してくれと叫ぶような何かがある気がして、それを探すような感覚で文章を書いている。 つい最近。今年も、高校のときに自死で亡くなった友人の墓参りに行った。これで六年目になる。もう六年、とい…

どうでもよいと思うのはどうでもよくないから。中庸から解脱したとき。

ちょうど自分の一個下の代が、この年から社会人になる代なのだけれど(浪人とか院進を除いて)、バイト先の一個下の女の子が、フリーター的立ち位置(そう呼ぶのが相応しいか分からないので濁した)の生活を送ることになったみたいだ。この時期はどうしても…

選ぶしかない、という選択肢に選ばれているということ

最近は園子温の話でまた盛り上がっている。こんなことは以前にもやっていたんじゃないか、と思う。それがまさに小山田圭吾の事件だったんじゃないか。やっていることは許せない、時代が変わろうとも手をつけてはいけない行為。しかし、その時代において、そ…

「モノ」と「者」から見る反出生主義のグラデーション

最近、またまたそんなことを考えている。いつまで考えるのだろうか。死ぬまでだろうか。 僕たちの中にはしばしば、子供なんか産めるものかと考える人がいる。それが少数派なのかどうかはいまいちわからない。ただその傾向が今までに比べれば強まっているのは…

読書レビュ―【2021年度下半期】

読書するとき、心に残ったものは一冊ごとにレビューを書くようにしたので、こんな本を読んだと全体的に総括するのは半年に一回くらいのペースがちょうど良いと感じるようになりました。この半年で読んだ本をパーッと振り返っておきます。 『そしてバトンは渡…

軋むベッドでずっと寝ていた非国民の話

引っ越し作業がひと段落ついた。近場での引っ越しだったのでそこまで苦労はなかったけれど、それでも自力での引っ越しは初めてだったので、至る所でてんやわんやした。この記事も、Wifiが届かないアクシデントの中、カフェに逃げ込んで書いている。3月末が…

彩瀬まる『不在』が、本当に「不在」の物語だった

久しぶりに、読書でふるえた。 不在 (角川文庫)作者:彩瀬 まるKADOKAWAAmazon 彩瀬まるさんは、2010年に「女による女のためのR18文学賞」という賞の受賞でデビューされ、2017年には『くちなし』という作品が直木賞候補にものノミネートされている作家さんだ…

『『だから僕は"人生"をやめた』』【後編】

www.mattsun.work 前編で話したのは、我々は恋愛ではなく失恋なのだということだった。 それを、ヨルシカの曲に重ね合わせ、そこにひとりの人生を投影してみたいと思った。 『だから僕は音楽をやめた』の歌詞に見てみる www.youtube.com 歌詞を全文載せてお…

『『だから僕は"人生"をやめた』』【前編】

『だから僕は音楽をやめた』というのは、ヨルシカという音楽グループの曲だ。もう3年前の曲だが、ひょんなことから知ることになり、初めて聞いたとき、ああこれは、本質の曲だ、そう感じてしまった。 www.youtube.com だから僕は音楽をやめた。それは、ただ…

想像もできない価値観の転換に【『殺人出産』を読んで】

えぐい本を読んでしまった。 殺人出産 (講談社文庫)作者:村田沙耶香講談社Amazon 村田沙耶香の独特の世界観が繰り広げられすぎて、思春期に読んだら多分病んでた。 一編目では、十人産めば一人殺せるという制度のある世界で、十人目の出産を終えた姉を妹が見…

自殺するより前に。光になるより前に。

自殺とは即ち速度なのではないか、と思うことがある。 観測史上もっとも速度を持つものは光とされている。自殺とは、光に似たようなものがある。 理系の一部の人間以外を置いて行く議論だが、相対性理論というものがある。あれは何を語っているかと言えば、…

漂白される銀色世界とコロナ、個人主義の果てに【後編】

www.mattsun.work 前編では、管理主義から個人主義への推移で自殺が減り、個人主義をさらに過激にしたのがアドラー心理学ではないかという話をした。そこにコロナが介入した結果、どうなるのか。 コロナが必要としたのはウイルス免疫ではなくヒトの加害免疫 …

漂白される銀色世界とコロナ、個人主義の果てに【前編】

自殺を考えない日はないと言っても過言ではないほどの日々を過ごしている。このブログに書く記事だって何かしら最終的には自殺と結びついているし、小説を書くときだって、自殺をテーマにしない文章を書いたことは一度もない。 さて、話は横に飛び、現在ちょ…

健やかな論理と、痛みの掃き出し【『どうしても生きてる』を読んで】

「やっぱな、自殺じゃないんだよこんなの。わかってたことじゃん」 第一話の『健やかな論理』にて1ページ目に登場したこの台詞を見て、その題の「健やか」という形容詞の意味するところが脳の奥にまで染みわたったような感覚を憶えられただけで幸せだった。…

文学の"高尚性"に関する議論

しばしば文学は、その高尚性を議論されることがある。高尚性というのは言い換えれば、敷居の高さのようなものだ。芸術作品の中でも、例えば音楽なんかに比べると、文学の方がとっつきにくいような印象を持つ人が多いと思う。 要因は様々だろう。簡単に思いつ…

目には目を、殺人には殺人を。加藤智大『解』を読む

人を殺すことを認めないこの国で唯一認められている殺人は、死刑制度である。法の下に裁かれた場合のみ、他者の命を奪うことが正当化される。 死刑制度に関する賛否は両論ある。死刑制度に賛成するときには、死刑を課せられるほどの重罪を犯した者の命を保証…